主観的な自信は信用できないとしたら,直感的な判断のもっともらしい妥当性をどうやって評価すべきだろうか。そうした判断が本物の専門知識やスキルに裏付けられているのはどんな場合で,妥当性の錯覚を露呈しているのはどんな場合だろうか。答は,スキル習得の2つの基本条件から導き出すことができる。
・十分に予見可能な規則性を備えた環境であること。
・長期間にわたる訓練を通じてそうした規則性を学ぶ機会があること。
この2つの条件をどちらも満たせるなら,直感はスキルとして習得できる可能性が高い。チェスは,規則性のある環境の代表例と言える。ブリッジやポーカーも明確な統計的規則性を備えており,こちらもスキルとして習得可能だ。医師,看護師,運動選手,消防士が置かれる環境は,複雑ではあるが,基本的には秩序がある。このように,ゲーリー・クラインが取り上げてきた精度の高い直感は,妥当性の高い手がかりに裏付けられている。こうした手がかりは,たとえシステム2が学習して名前をつけていなくても,システム1が学習して活用することが可能だ。これに対してファンドマネージャーや政治評論家が長期予想をする状況は,予測妥当性がゼロに等しい。彼らの予測がことごとく外れるのは,予想しようとする事象が基本的に予測不能であることを反映しているにすぎない。
ダニエル・カーネマン 村井章子(訳) (2012). ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるのか(下) pp.16-17
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