リスクを伴うプロジェクトの結果を予想するときに,意思決定者はあっけなく計画の錯誤を犯す。錯誤にとらわれると,利益,コスト,確率を合理的に勘案せず,非現実的な楽観主義に基づいて決定を下すことになる。利益や恩恵を過大評価してコストを過小評価し,成功のシナリオばかり思い描いて,ミスや計算ちがいの可能性は見落とす。その結果,客観的に見れば予算内あるいは納期内に収まりそうもないプロジェクト,予想利益を達成できそうもないプロジェクト,それどころか完成もおぼつかないプロジェクトに邁進することになってしまう。
このように考えると,リスクの大きなプロジェクトを前にした意思決定者が,必ずとは言えないまでもしばしばゴーサインを出すのは,成功の確率を過度に楽観視しているからだ,と言うことができる。
ダニエル・カーネマン 村井章子(訳) (2012). ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるのか(下) pp.35
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