ある実験によれば,怒った顔は大勢のニコニコ顔の中から「飛び出して見える」という。一方,大勢の怒った顔に混じった1つのニコニコ顔は,見つけるのが難しい。人間に限らず動物の脳には,悪いニュースを優先的に処理するメカニズムが組み込まれているからだ。捕食者を感知するのにほんの100分の数秒しか要さないこのメカニズムのおかげで,動物は子どもを産むまで生き延びることができる。システム1の自動作動は,こうした進化の歴史を反映していると言えよう。一方,よいニュースに関しはこのようなメカニズムは存在しない。言うまでもなく,人間も動物も異性や餌を獲得するチャンスには敏感に反応するし,広告や看板はそうした性質を利用して制作されている。それでもなお,危険は好機より優先されるし,またそうあるべきだ。
ダニエル・カーネマン 村井章子(訳) (2012). ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるのか(下) pp.103-104
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