めったにない出来事が起きる確率は,それ以外の出来事が特定されていない場合に,とりわけ過大評価されやすい。ここで私のお気に入りの事例を紹介しよう。心理学者のクレイグ・フォックスが,まだエイモスの学生だった頃に行った調査である。フォックスはプロバスケットボール・ファンを回答者に募り,NBAのプレーオフでどこが勝つか質問した。正確には,参加8チームそれぞれについて優勝の可能性を予測してもらった。この場合,各チームの勝利が関心事象となる。
読者はもうどんな結果が出たか,おおよそのところは予想がついていることだろう。だが実際の結果の極端ぶりを見たらきっと驚くにちがいない。たとえばあるファンが,シカゴ・ブルズが優勝する可能性を質問されたとしよう。質問された瞬間に関心事象は定まるが,それ以外の事象は残り7チームのいずれかの優勝ということになり,注意の対象が分散し,イメージが湧きにくい。するとこのファンの記憶と想像力は確証モードで作動し始め,ブルズ優勝のシナリオを組み立てようとする。ところが,この同じ人が次にロサンゼルス・レイカーズが優勝する可能性を質問されると,やはり先ほどと同じことが起きる。かくして8チームどこも優勝の可能性がむやみに高くなり,比較的弱そうだと思っていたチームでさえ,輝かしいチャンピオンとしてイメージされる。結果,この人が予想した各チームの優勝確率を足し合わせると,なんと240%になってしまった。もちろん,こんな予想はまるででたらめである。8チームの優勝確率は,必ず100%にならなければならない。8チームそれぞれの優勝確率ではなく,イースタン・カンファレンスとウェスタン・カンファレンスの優勝確率を質問した場合には,このようなばかげた結果にはならない。関心事象とそれ以外の事象が特定されているので(カンファレンスは2つしかない),予想確率を合計するとちゃんと100%になった。
ダニエル・カーネマン 村井章子(訳) (2012). ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるのか(下) pp.137-138
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