50年前には,ICUはほとんど存在しなかった。だが,現在の多くの病院では,ICUは主要な部門だ。私の病院を例に取れば,1日あたりの患者約700人のうち,155人がICUに入れられる。平均滞在日数は4日,生存率は86%もある。危険な状態なのは間違いないが,人工呼吸器を取り付けられ,多数の管や電極を繋がれても,大半は助かる。ICU入室は必ずしも死の宣告ではないのだ。
だが,ICUケアを成功させるためには,メリットがリスクを上回っていることが肝要だ。これは非常に難しい。15年前にイスラエルの科学者たちが出した論文がある。ICUを24時間観察して得たデータをまとめたものだ。それによれば,患者1人あたり,1日に平均178もの手順が必要だった。投薬から痰の吸引まで様々な手順があり,それぞれにリスクがある。医者や看護師はこれらの手順のわずか1%でしかミスをしなかった。だが,わずか1%でも,178の1%は約2となり,患者1人あたり1日に約2つのミスが起きる計算になる。
アトゥール・ガワンデ 吉田 竜(訳) (2011). アナタはなぜチェックリスト使わないのか?:重大な局面で“正しい決断”をする方法 晋遊舎 pp.32
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