日本でも,この10年,20年,表現教育,コミュニケーション教育ということが,やかましいほどに言われてきた。しかし,どうも私たち表現の専門家の側からすると,日本のこれまでの表現教育というものは,教師が子どもの首を絞めながら,「表現しろ,表現しろ!」と言っているようにしか見えない。そういう教員は,たいていが熱心な先生で,周りも「なんか違うな」と思っていても口出しができない。
私は,そういう熱心な先生には,そっと後ろから近づいていって肩を叩いて,「いや,まだ,その子は表現したいと思っていませんよ」と言ってあげたいといつも感じる。
この点が,現在の日本の表現教育が抱える一番の問題点ではないかと私は思っている。いまどきの子どもたちをどう捉えるかの,大事な観点がここにある。
平田オリザ (2012). わかりあえないことから:コミュニケーション能力とは何か 講談社 141-147/2130(Kindle)
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