私たち言語教育に関わる者は,子どもの表現力をつけるという名目のもと,スピーチだ,ディベートだといろいろな試みを行ってきた。その1つ1つには,それぞれ意味があり,価値があったのだろう。
しかし,そういった「伝える技術」をどれだけ教え込もうとしたところで,「伝えたい」という気持ちが子どもの側にないのなら,その技術は定着していかない。では,その「伝えたい」という気持ちはどこから来るのだろう。私は,それは,「伝わらない」という経験からしか来ないのではないかと思う。
いまの子どもたちには,この「伝わらない」という経験が,決定的に不足しているのだ。現行のコミュニケーション教育の問題点も,おそらくここに集約される。この問題意識を前提とせずに,しゃかりきになって「表現だ!」「コミュニケーションだ!」と叫んだところで意味はない。
平田オリザ (2012). わかりあえないことから:コミュニケーション能力とは何か 講談社 201/2130(Kindle)
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