「冗長率」という言葉がある。
1つの段落,1つの文章に,どれくらい意味伝達とは関係のない無駄な言葉が含まれているかを,数値で表したものだ。
先に掲げた話し言葉のカテゴリーの中で,さてでは,もっとも冗長率が高いのは,どれだろう。当然,多くの方は,「会話」だと考える。「無駄話」というくらいだから,親しい人同士のおしゃべりが,冗長率が高いだろうと感じる。
しかし「会話」は,内容はたしかに冗長かもしれないが,冗長率自体は高くならない。お互いが知り合いだと,余計なことはあまり喋らない。もっとも冗長率の低い話し言葉は長年連れ添った夫婦の会話だろう。「メシ・フロ・シンブン」というやつだ。
もちろん演説やスピーチは,基本的に冗長率が低い方が優れているとされる。「えー」とか「まー」が多用されると聞きづらい。
実は,もっとも冗長率が高くなるのは,「対話」なのだ。対話は,異なる価値観を摺り合わせていく行為だから,最初はどうしても当たり障りのないところから入っていく。腹の探りあいも起こる。
「えーと,まぁ,そうおっしゃるところはわからないでもないですが,ここは1つどうでしょうか,別の,たとえば,こういった見方もあるんじゃないかと……」
とここまで,何一つ語っていない。冗長率は圧倒的に高くなる。
平田オリザ (2012). わかりあえないことから:コミュニケーション能力とは何か 講談社 960-967/2130(Kindle)
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