私たち日本人は,靴を脱いで上がり框に足をかけるとき,脱いだ靴をくるりと反転させる。しかし,聞くところによると,韓国の人たちはこれを嫌がるらしい。「そんなに早く帰りたいのか」と思うのだそうだ。
この現象は,靴を脱いで家に上がるという文化を共有しているからこそ起こる摩擦だろう。西洋人との間なら,「ここは靴を脱いでください」という言語コミュニケーションが介在するから,摩擦は顕在化し,その都度解消される。しかし,靴の向きを変えるか変えないかといった些細な事柄は,私達の日常の中では見過ごされがちだ。
両国にいまだに根強い嫌韓,反日の感情も,こういった近親憎悪的な事例,あるいはそこに由来・派生する事柄が多くある。日韓だけではない。世界中を見渡しても,隣国同士はたいてい仲が悪い。その原因の1つは,文化が近すぎたり,共有できる部分が多すぎて,摩擦が顕在化せず,その顕在化しない「ずれ」がつもりつもって,抜き差しならない状態になったときに噴出し,衝突を起こすという面があるのではないか。
平田オリザ (2012). わかりあえないことから:コミュニケーション能力とは何か 講談社 1520-1530/2130(Kindle)
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