一般に,先延ばしをする人は完璧主義者なのだとよく言われる。自分に課す基準が高すぎて,その理想に届かないのがいやで,課題に手をつけられない,というわけだ。この「先延ばし人間=完璧主義者」説は,説得力がありそうに聞こえるし,耳に心地がいい。おおむね,完璧主義は好ましい資質とみなされているからだ。「あなたの最大の欠点は?」という問いに,あなたはどう答えるだろう?アメリカの視聴者チャレンジ型のテレビ番組『アプレンティス』で優勝を目前にしていたビル・ランチックという男性は,こう答えた。「ぼくは完璧主義すぎるんです。それが欠点ですね」。そう言われれば,相手はこう言わないわけにはいかない。「いや,完璧主義はいいことですよ。高い理想に向けて努力し続けるのですから」
しかし,「先延ばし人間=完璧主義者」説にはデータの裏づけがない。この点は先延ばし研究の分野で最も詳しく研究がなされているテーマで,これまでに何万人もの人を対象に調査がおこなわれている。そうした研究結果を見る限り,完璧主義と先延ばしの間にはほとんど相関関係がない。完璧主義度の診断基準「オールモースト・パーフェクト・スケール(=おおむね完璧な基準)」を作成したカウンセリング心理学のロバート・スレーニーによると,「完璧主義者はそうでない人に比べて,先延ばし癖の持ち主が少なかった。つまり,これまで個別の事例に基づいて主張されてきた通説が覆されたのである」。私の調査でも,同様の結論が得られている。几帳面で,計画的・効率的に行動できる完璧主義者は,概してものごとをぐずぐず遅らせたりはしない。
ピアーズ・スティール 池村千秋(訳) (2012). 人はなぜ先延ばしをしてしまうのか 阪急コミュニケーションズ pp.29-30
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