先延ばしの起源は,おそらく9000年くらい前に農業が始まったときにさかのぼる。人類がはじめて人為的に設けた「締め切り」は,春に畑に種をまき,秋に作物を刈り取ることだった。こうした作業は,文明を築き,生き延びていくうえで不可欠だったが,進化のプロセスはこの課題を成し遂げる能力を私たちに備えてくれなかった。先延ばしに関して記している初期の文献がことごとく農業について書いているのは,偶然ではない。4000年前の古代エジプト人は,遅延を意味するヒエログリフ(神聖文字)を少なくとも8種類も用いており,とくにそのなかの1つは怠慢や忘却による遅延,つまり先延ばしを表すものだった。その「先延ばし」を意味するヒエログリフは,ナイル川の氾濫の周期など,農業に関する文脈で最も頻繁に用いられていた。
ピアーズ・スティール 池村千秋(訳) (2012). 人はなぜ先延ばしをしてしまうのか 阪急コミュニケーションズ pp.88
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