消費者行動論が専門のコーネル大学のブライアン・ワンシンク教授の研究によれば,食に関する私達の選択はおおむね,空腹の程度とはあまり関係がなく,食器のサイズや目の前にある食べ物の量,食べ物の見栄えなどの外的状況の影響を強く受ける。ワンシンクはノーベル賞のパロディ版「イグノーベル賞」を受賞した研究で,被験者に内緒で中身を注ぎ足せる仕組みのスープ皿を考案して実験をおこなった。すると,この「減らないスープ皿」で食べた被験者は,ふつうのスープ皿で食べた被験者に比べて,食事を終わりにするまでに飲んだスープの量が76%も多かった。
私たちの日々の行動の約45%は,「スープは1皿分すべて飲むものである」といった類の習慣に基づく行動によって占められている。この割合をさらに高める目的で,人びとがある行動を取りやすい状況をつくり出したり,ある場面である行動を取るのが当たり前だと人々に思い込ませたりすることが,大きなビジネスになっている。
ピアーズ・スティール 池村千秋(訳) (2012). 人はなぜ先延ばしをしてしまうのか 阪急コミュニケーションズ pp.112-113
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