課題をやり遂げるまでに要する時間を想定するときはとりわけ,過度の楽観主義に陥りやすい。心理学の世界では,この落とし穴を「計画の錯誤」と呼ぶ。ごくありきたりの課題を終わらせるまでにどれだけ時間がかかるのかさえ,ほとんどの人は正確に予測できない。家族にクリスマスプレゼントを買うにせよ,取引先に電話をかけるにせよ,レポートを完成させるにせよ,たいてい思っていたより時間がかかる。私自身,いまこの章の原稿を推敲しているが,こんなに締め切りぎりぎりまで作業が終わらないとは想定していなかった。
計画の錯誤に陥ることが避けがたいのは,誤った先入観が私たちの記憶に埋め込まれているせいだ。私たちは未来の課題の所要時間を予測するとき,過去に同様の課題に要した時間を思い返す。しかしその際,過去の所要時間を実際より短く考え,課題達成の過程でつぎ込んだ努力と直面した障害を軽く考えてしまう。この計算違いにより,先延ばしの弊害にますます拍車がかかる。締め切りから逆算してぎりぎり間に合う時間に作業を始めたつもりが,残された時間では十分でなかった,という結果になりかねない。
ピアーズ・スティール 池村千秋(訳) (2012). 人はなぜ先延ばしをしてしまうのか 阪急コミュニケーションズ pp.165
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