ファインマンは常々,哲学者にはバビロニア人系とギリシャ人系の2つのタイプがあると言っていた。古代文明の中の対立する2つの哲学を引き合いに出しているのだ。バビロニア人は,数や数式の理解,幾何学などに最初に大きく踏み込み,まさに西洋文明のさきがけとなった。一方,後期のギリシャ人---特に,タレス,ピタゴラス,ユークリッド---は,数学の祖と評価されている。バビロニア人は,計算のやり方が正しいかどうかだけにこだわり(つまり,これが真の物理学的な姿勢というにふさわしいのだが),その計算の結果が正確かとか,もっと高度の論理体系にも適応するかにまではこだわらなかった。一方,タレスや弟子のギリシャ人は,定理や証明という考え方の発案者だ。そして,何らかの主張が事実だとされるには,はっきりと系統だった原理や仮定に基づいたシステムで,正確な論理的結果が出なくてはならないと考えていた。早い話が,バビロニア人はものごとの現象に焦点を合わせ,ギリシャ人は根本的な道理に焦点を合わせていたのだ。
レナード・ムロディナウ 安平文子(訳) (2003). ファインマンさん 最後の授業 メディアファクトリー p.42-43.
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