私をはじめとするメンタリストたちの多くは(とはいえ,どうも私はこの肩書きが好きになれないが),メンタルを得意とするようになる前は(おかしくなる前,とも言えるのだが),マジシャンとしてスタートしている。たいていのマジシャンは比較的分かりやすく,何パターンかにタイプ分けできるのに対して,メンタリストは人数も少なく,それぞれの分野も離れていて,極端にタイプが違っていたりもする。テクニックを習得するのもマジックよりずっと難しく,人間性が何より最重要になってくる。
多くのメンタリストは,私から見れば倫理的な一線を越えており,タロット占い師や,いわゆる“超能力者”になったり,中には死者と会話する者もいる。スピリチュアリストとして,または正統派のキリスト教徒として協会で働いている者もいる。エンターテイナーにとどまりながらも,「本物の超能力を持っている」と,ごく普通に主張する者もいれば,同業者のインチキを暴く輩もいる。一方では,「モチベーションを上げるためのビルダーシップ」などと名付けたセミナーを週末に開催し,自分の能力を100パーセントの精度に鍛え上げた心理学的スキルとして売っている者もいる。現場での実際のスキルは純然たる手品かもしれないし,あるいは,自分が聞きたい答えをいかに相手に言わせるかというテクニックに頼っている者もいるだろう。しかし悪意はなく,人を楽しませ,有益で,そして弁解の余地がないほど人を巧みに操る。儲けやエゴに,あるいは逆に心からの博愛精神に突き動かされているのかもしれない。
ダレン・ブラウン メンタリストDaiGo(訳) (2013). メンタリズムの罠 扶桑社 pp.32-33
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