人の心理は面白いものだ。トリックに驚くと,人は“普通ではあり得ないようなことを体験した”という魅惑的な思い違いをする。自分は騙されているに違いないという内心の知識よりも驚きの感情のほうがずっと大きく,抵抗できないのだ。実際,自分の驚きがあまりにも広がってしまい,騙されたという知識など取るに足らないことになってしまうのである。それどころか,見事に騙してくれた相手に称賛の気持ちすら覚える。当惑と同様,驚嘆は暗示にかかりやすくなっている状態であり,キツネにつままれた状態の観客はマジシャンに与えられたあらゆる暗示を即座に受け入れるだろう。すべては,マジシャンのテクニックがよりいっそうあり得ないものに見えるよう計算されているのだ。騙された客たちは,トリックが,いかに素晴らしいものだったかを確固たるものにするために,どんなことでもしてくれる。
ダレン・ブラウン メンタリストDaiGo(訳) (2013). メンタリズムの罠 扶桑社 pp.55
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