催眠状態での手術という例を考える前に,理解するべき重要点がある。体の中で一番感覚が敏感なのは皮膚であり,内臓や細胞の組織は痛みにほとんど無感覚だ。私たちは内臓が引っ張られたり伸ばされたりすることには敏感かもしれないが,内臓のどこを切られても痛みはごくわずか,またはまるで感じない。そのため,皮膚の切開による痛みを最小限にするためのリラクゼーションや暗示といった比較的普通の効果だけで,痛みを感じず手術を行うことができるかもしれない。ワグスタッフは,現代の外科医が一般的な麻酔薬を好んで使用するのは,そうすることが必要なのではなく,そのほうが恐怖と緊張を緩和できるからというだけの理由だと,1974年のある医学論文に明記されていると指摘する。これは驚くべき事実であり,このことを理解し,“催眠的”手術の多くは今でも実際は皮膚麻酔を使っているという事実を併せて考えると,“特別な状態”が痛みを抑制してくれるという考え,ひいては“催眠による手術”という概念自体がやや不要に思えてくる。
ダレン・ブラウン メンタリストDaiGo(訳) (2013). メンタリズムの罠 扶桑社 pp.191-192
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