こうした<日常生の美学>,<近さの美学>とも呼ぶべきものこそが,青春ガールズムービーのみならず,ももクロの大きな特徴と魅力をなしている。ももクロは,アイドルであり,その意味では非日常的で「遠い」存在かもしれない。しかし彼女らは,手の届かない「スター」ではない。あくまで「今会えるアイドル」である。ももクロは,どれほど有名になってもそれを強調し続けてきた。ももクロのもうひとつのキャッチフレーズ「週末ヒロイン」も,彼女たちが学校に通う,普通の中高生にすぎないことを強調する効果をもつ。
このことは,ももクロを含む最近の「ライブアイドル」,あるいは「ご当地アイドル」全般に,多かれ少なかれあてはまる。彼女たちは,近接ライブ,握手会,撮影会などを盛んに行ない,その近さをアピールする。現在は高嶺の花になった AKB48でさえ,秋葉原の専用劇場にゆけばいつでも会える「会いに行けるアイドル」であることを売りにしてきた。宇野氏が村上春樹から借りたいい方をすれば,「リトル・ピープルの時代」のヒロインである。
安西信一 (2013). ももクロの美学:<わけのわからなさ>の秘密 廣済堂出版 pp.134
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