学力に関する調査が行われると,いつも問われるのは「学力」とは何かという概念である。学力を明快に分析している専門家に,大阪大学の清水宏吉氏がおられる。氏は学力を「知識の詰め込み」で獲得できるA学力,「思考力」「判断力」「考える力」などと呼ばれるB学力,「意欲」や「関心」「態度」といったC学力と3領域に分け,この3つの学力のうちC学力が「根」となり,B学力が「幹」に,A学力が「葉」となる「学力の樹」をイメージしている。そして「3つの学力が文字どおり一体となって,ひとつの学力の樹を形づくって」おり,どの1つでも欠けたら生きた樹とはいえないと明言されている。この魅力的なイメージの学力観を基に「底辺校」の生徒たちの「学力」を見てみたい。すると「底辺校」の生徒たちは既に小・中と9年間学校教育を受けてきたはずなのに,ほとんどの生徒が先の3つの領域の学力を表面的にはまったくといってよいほど身につけていない「無学力」状態であることがわかる。「生きた樹」を形づくっていないのだ。
朝比奈なを (2006). 見捨てられた高校生たち:公立「底辺校」の実態 新風舎 pp.32
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