道徳化というのは,ある対象や活動が,新たに生まれた道徳的な考え方の影響を受けて,倫理的に中立的なものから倫理に反するものに——通常は悪い方向に転じるプロセスをいう。ここ50年間で,北米では喫煙に対する人々の考えが,格好いいことから格下げになったのはその典型である。「副流煙」はその場に居合わせる罪のない人々,特に子供たちにいかに深刻な害を及ぼすか,警告するマスメディアの健康キャンペーンの矢面に立たされ,喫煙者は過失致死を犯した悪人同然であると後ろ指をさされている。道徳化が反対方向に作用し,たとえば昆虫を料理として食べるのを気持ちの悪いことから高潔なことに変えさせる作戦として使える場合もある。「バッタのディナーは母なる地球への恵みとなる」といったスローガンが未来の屋外広告に使われている場面を,私は想像できる。環境志向の広告はこれまで,たとえば,ガソリンを食うハマー(アメリカのSUV車)に乗る人々をあざ笑い,電気自動車シェビー(シボレー)ボルトを欲しがらせるのに成功してきた。似たようなマーケティング的アピールによって,人々が虫料理を切望するように働きかけられるのではないだろうか。
レイチェル・ハーツ 綾部早穂(監修) 安納令奈(訳) (2012). あなたはなぜ「嫌悪感」を抱くのか 原書房 pp.31
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