保険会社のレスポンス インシュランスが2005年に行った調査によると,アメリカ人の17%が,運転中に鼻をほじっていて事故を起こしそうになったことを認めている。私の想像では,運転しながら鼻をほじったことのある人の割合は,ほぼ100%に達すると思う。にもかかわらず,運転中に鼻をほじるのは,携帯電話で話をするよりも危ないと考えられており,カナダでは運転しながら鼻をほじったら850ドルの罰金を科せられるという新しい法律が制定された。これは運転中に携帯電話で通話をしたときより,350ドル高い。
私たちを社会に縛りつけているうわべのしきたりや教養ある行動をかなぐり捨てたら,一体どうなるのだろう?
自分や他人の体液に好きなだけまみれたがるのだろうか?
そうする人もいるだろう。ラプンツェル症候群は,髪の毛を食べることに矢も盾もたまらず惹きつけられてしまう病気である。誰の頭髪であろうとこだわらない。この症候群に陥った者は,あなたのバスルームに入ってきて,ヘアブラシから髪の毛をむしりとり,むさぼり食う。髪の毛を食べたい衝動が,毛髪の大きな塊を取り除くために胃の手術をしなければならなくなるほどに強くなる。こうなると,原始的な肉体的な欲求に従順なのも行き過ぎである。ところが,動物的な衝動と表向きの抑制との間の葛藤こそが,人間が人間たる真髄である。子どもにはこうした葛藤はない。人間は成長したらおもちゃを捨てなければならない。そのおもちゃが風変わりな発想から作られたものであろうと,身体がつくり出したものであろうとだ。
レイチェル・ハーツ 綾部早穂(監修) 安納令奈(訳) (2012). あなたはなぜ「嫌悪感」を抱くのか 原書房 pp.75-76
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