最近の例では,恐ろしい胃の感染症(クロストリウム ディフィシル)の治療事例がある。ある女性患者は下痢に間断なく襲われ,8ヵ月間で27キロも痩せ,おむつをして車椅子の生活を送るまでになってしまった。従来の抗生物質を使った治療はうまくいかず,担当した胃腸科専門医は数ある選択肢のなかから糞便インプラント(着床)という珍しい治療を試した。彼女の夫の排泄物のサンプルをとり,それを生理食塩水のなかに混ぜたものを患者の腸内に注入するのだ。腸内で夫の細菌が優勢になり,患者の腸内細菌が正常化した。彼女の下痢症状は24時間以内に消え,数日後には完全に回復し,現在に至るまで病気は再発していない。嫌悪感のせいでこの治療の発明や応用が妨げられなかったのは幸いだ。もしそうだったなら,この女性やこの病気にかかった患者たちは死ぬしかなかったはずだ。
レイチェル・ハーツ 綾部早穂(監修) 安納令奈(訳) (2012). あなたはなぜ「嫌悪感」を抱くのか 原書房 pp.141
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