ポール・ロジンに師事し,現在はアリゾナ州立大学教授になったキャリル・ネメロフは,学位論文を書くためにこんな実験をした。まず,新品のセーターが,ヒトラー,イヌの糞,肝炎といった,さまざまな不快な人やものと触れたとする。被験者には,セーターを消毒したり,マザー・テレサのような善人に着てもらうといったさまざまな手続きを経ると,セーターの属性がどれほど更新されるか想像するように指示した。興味深いことに,消毒は,肝炎のようなセーターの物理的な不快感の浄化には有効だった。ところがヒトラーのセーターを着た場合にだけ,その悪徳を薄めることができたものの,だからといってその穢れを完全に消し去ることはできなかった。ヒトラーの不快なエッセンスを完全に消し去る唯一の手段は,セーターを徹底的に破壊すること——燃やすことだった。魔女狩りの不幸な時代や,内容が精神を蝕むとされる本を燃やした事件などにもみられるように,昔から,何かを燃やすことは人智を超えた悪を駆逐する方法だった。燃やすことによって,文字どおり,また象徴的な意味でも,悪を灰に帰してしまうからである。
レイチェル・ハーツ 綾部早穂(監修) 安納令奈(訳) (2012). あなたはなぜ「嫌悪感」を抱くのか 原書房 pp.155
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