1940年には,国民啓蒙・宣伝省は映画部を作り,同年,史上最も有名なナチのプロパガンダ映画『永遠のユダヤ人』を制作した。この映画には,ナチのポーランド侵攻のドキュメンタリー場面と,ポーランド系ユダヤ人は堕落しており下品で怠惰で醜悪で邪悪だとするスタジオ収録の場面とが交互に登場する。ここでは,ユダヤ人は汚れた下水管からもがき出て,「権力と信仰を毒性の強い病気のようにまき散らしているネズミの群れ」にたとえられている。当時は医学書でさえ,ユダヤ人を「菌のようにはびこる」バクテリア,腫瘍,がんになぞらえていた。1936年(ベルリンオリンピックの年)の医学生に向けた講義では,ナチ親衛隊に属していた放射線科教授ハンス・ホルフェダー博士が学生らに見せたスライドで,ユダヤ人はがん細胞として,ナチの突撃隊員は当然ながらがんと闘う放射線として描かれていた。ナチは,ユダヤ人に病原体という烙印を押した上に,彼らが病気の原因となる物品,たとえばタバコを取引していることを非難した。世間に広められたメッセージは「ユダヤの害虫と伝染病を根絶せよ」。悲しいことに,このメッセージは功を奏した。
レイチェル・ハーツ 綾部早穂(監修) 安納令奈(訳) (2012). あなたはなぜ「嫌悪感」を抱くのか 原書房 pp.158
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