人類は,肉体的にも心理的にも死の問題からわが身を守るために,何かを苦手に思う感情を生み出したのである。そのせいで私たちは,かさぶたに覆われた傷やブタに似た食べ方や自分の生活を脅かす人々を避けようとする。誰かに嫌悪感を催すとその人を蔑んだ態度をとる。こうした人々によって免れられない死を思い起こさせられたり,いつか死ぬという真理を寄せつけずにいてくれる社会構造や幻想が脅かされたりすると,反発心が生じる。嫌悪感は死に対する拒絶反応だといわれてきた。嫌悪感こそが「今,目の前にあるこれを拒絶する」,あるいは「あなたを拒絶する」と訴える。そうすることによって,拒絶された「これ」が象徴的にも実際にも予感させる,破滅の道に向かう可能性から私たちは守られる。拒絶とは,すべての嫌悪感の裏に隠れている原則的な姿勢なのである。
レイチェル・ハーツ 綾部早穂(監修) 安納令奈(訳) (2012). あなたはなぜ「嫌悪感」を抱くのか 原書房 pp.184
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