かなり最近まで,喫煙はおしゃれで好ましい行動だった。しかしいまや,喫煙は汚く危険で,本人だけでなく他人も汚染し,喫煙者は下賎で,がさつ,哀れだということになってしまった。はっきりと謳われていなくても,喫煙は嫌悪すべき習慣で喫煙者は汚染された社会の負け犬であり,道徳観に欠けるというメッセージを広告は発信している。この方法は,成人の喫煙マーケットが衰退を見せるまでの数十年にわたってよく宣伝されていた「喫煙は健康に害があります」という禁煙キャンペーンよりも,ずっと効果的だった。最近の喫煙に対する「道徳観の欠如した」観点からの非難の最たるものは,受動煙または副流煙(非喫煙者が吸い込む煙)には命に関わる影響があり,子供など罪もない犠牲者に特に有害だという「新しいデータ」が伝えられていることだ。わかりやすくいうと,喫煙者は,その無責任で自己中心的な行動で赤ん坊を殺してしまう道徳観のない落伍者なのである。
レイチェル・ハーツ 綾部早穂(監修) 安納令奈(訳) (2012). あなたはなぜ「嫌悪感」を抱くのか 原書房 pp.271
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