怒りを覚える状況と,嫌悪感を覚える状況の違いは,共通の表現から判断することができる。アリゾナ大学のロビン・ナビは,大学生らに,“怒っている angry”“むかつく disgust”“げんなりする,ぞっとする gross out”で表現できる感情をいだいた時のことを記述するように指示した。怒った時のことを書くようにいわれた学生は全員,自分が,何らかの手段で干渉されたり危害を加えられたりした時の出来事を記述した。ところが,「むかついた」体験を報告するようにいわれた被験者の75%は,怒りが引き起こされたのとまったく同じタイプの出来事——たとえば不公平な扱いを受けたことや他人の行動に気を悪くしたことや,スキャンダルを書き立てられたことや騙されたことを挙げた。ところが,「ぞっとした」体験を書くようにいわれた学生の92%が,体液や死や昆虫に関する出来事について報告していた。つまり,むかついた状況を書くようにいわれた時に,怒っているときと異なるタイプの出来事について報告したのは25%だけだったということになる。このことからは,「むかついた」という時には,怒っていることが多いとわかった。「ぞっとした」という表現は,実際に吐き気を催すようなかなり限定したシチュエーションで使われるが,「むかついた」は実はそうではないことがわかった。
レイチェル・ハーツ 綾部早穂(監修) 安納令奈(訳) (2012). あなたはなぜ「嫌悪感」を抱くのか 原書房 pp.284
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