論理的に考えれば,そこで嫌悪感をいだかずにすむかもしれない。私たちに嫌悪感をいだかせることの多くには,回避しなければならないようなきちんとした理由などない。つまり,本当は恐れるに足らないものなのだ。また,嫌悪感をいだかせるのに充分な理由があったとしても,私たちには影響を及ぼさないものもある。自分たちの文化と考え方が,それを許容できるものに変えていくからだ。たとえば,ゴキブリやヘビは,パソコンや,いま流行りのペットである外来種の爬虫類に比べたら,人間に実際に危害も加えないし気分を悪くさせることもはるかに少ない。現在アメリカでは,保険会社の魅力的な広告のおかげで,可愛らしい緑色のヤモリ(gecko)が大人気のペットになっている。ところが,ヤモリにはこれまで研究された爬虫類のなかでも最も数多くのサルモネラ菌がいる。アメリカではサルモネラ菌が原因で年間約500人が死亡している。特に乳幼児が,爬虫類が運ぶサルモネラ菌に感染しやすい(肉や卵にいるサルモネラ菌とは対照的に)。アメリカでは,サルモネラ菌が原因となる疾病が急速に増加しており,明らかに爬虫類ペットの売り上げ増加と密接に関連している。低温動物の家庭用ペットの売り上げの急激な伸びは,独創的なマーケティングの影響がどれだけ効果的だったかの表れかもしれない。それにしても,カリスマ人気のヤモリにいとも簡単に騙されてしまうなんて,あまりにもおめでたいではないだろうか。
レイチェル・ハーツ 綾部早穂(監修) 安納令奈(訳) (2012). あなたはなぜ「嫌悪感」を抱くのか 原書房 pp.321-322
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