教育者が被教育者を絶え間なく観察することは不可能なことであろう。幼稚園や保育所はもちろんのこと,小・中・高校などでも教師は個々の児童・生徒について知識をもち,観察を怠らず,その行動傾向を正しく理解することを求められている。しかし,1日のうちの限られた時間だけの,しかも,少数の教育者が多数の被教育者を抱えている状況のなかでの観察は,効果的な教育に必要な事実を誤りなく集め,活用することを求められても無理な注文といわざるを得ないであろう。そこで実験的観察が必要になるのである。もちろん,人為的な刺激が被教育者にとってマイナスの効果をもつ可能性があってはならない(たとえば,試しに体罰を加えてみるなど)が,十分検討の結果導出した仮説にもとづいて,刺激を与え,その効果をみることをすすめたい。効果的教育は「実験的態度での観察」から生まれるのであろう。
中村陽吉 (1991). 呼べばくる亀:亀,心理学者に出会う 誠信書房 pp.163-165
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