ここまで「給与」あるいは「給料」と「賃金」を同じ意味で併用してきた。日常的にはいずれの用語も使われているが,「給」と「賃」では漢字の含みがかなり違う。「給」は目上の者から目下の者に金品を与えるという意味がある。女性がよく使う「お給料」という言葉は,会社や役所からいただくという意味合いを強く感じさせる。他方,「賃」には金銭を払って人を雇うという意味があり,いただくというニュアンスはない。「納税者」という言葉が下の者が上のものに納めるという響きをもつことを嫌って,「タックスペイヤー」という言葉を使う人がいる。それに倣ってというわけではないが,私は,「日給」「月給」「給与所得」などのような,置き換えると通りが悪くなる準専門的な用語は別として,なるべく給与あるいは給料より賃金という用語を使うようにしている。
なお,アメリカでは賃金(wage)とサラリー(salary)とが使い分けられている。前者は主に工場などの現場作業に従事するブルーカラーの時給労働者に支払われる日給または週給について使われる。後者は主に専門職やオフィスワークや営業などに従事するホワイトカラーの月額報酬(支払いは月給制でも年俸契約の定額報酬になっていることが多い)についていわれる。
盛岡孝二 (2011). 就職とは何か:<まともな働き方>の条件 岩波書店 pp.93
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