このような問題にはじめて本格的に関心が寄せられるようになったのは1960年代から1970年代初頭のことだった。この頃,児童精神医学と発達心理学が重なり合う分野の心理学者たちが,健全な成長と発達を阻害する幼児期の要因を調査し始めた。阻害要因としては,母親との別離,両親の離婚,胎児期の合併症などが挙げられるが,最大の危険因子が貧困であることは疑いの余地がない。この分野の研究の大部分は,臨床心理学者ノーマン・ガーメジーが統合失調症患者について行った先駆的な研究を基礎としている。ガーメジーは,興味深い発見をした。彼が担当する成人の統合失調症患者のなかには,困難な状況に直面しながらも驚くほど円滑な人生を楽しんでいる例が見られたのだ。彼らは仕事をもち,さまざまな活動を順調にこなし,恋人と良好な関係を維持していた。こうした患者(ガーメジーの研究では「反統合失調症患者」と呼ばれる)は,施設,失業,ホームレスという堂々めぐりの人生を過ごしているように見える「過程統合失調症患者」とは,あまりにも対照的だった。
こうした違いに関心を抱いたガーメジーは,さらに統合失調症の親をもつ子どもたちの調査に乗りだした。かなり意外だったのは,90パーセントの子どもたちが友達と良好な関係を築き,学業面で成果をあげ,しっかりとした将来の目標をもつなど,正常に発達していたことだ。彼は仲間の臨床学者たちに,研究の重点を危険因子から「子どもたちを生存と適応に向けて突き動かす力」に移すべきだと声高に訴えた。1970年代初頭,彼の呼びかけにより,心理的レジリエンスについて本格的な研究が始まった。
アンドリュー・ゾッリ,アン・マリー・ヒーリー 須川綾子(訳) (2013). レジリエンス 復活力:あらゆるシステムの破綻と回復を分けるものは何か ダイヤモンド社 pp.159-160
PR