1972年に心理学者アーヴィング・ジャニスがピッグス湾侵攻の失敗を例にとって説明したように,集団思考は,活動の成否が組織の団結力に大きく左右される集団——戦場で闘う兵士たちはまさにこれに当たる——においていつ発生してもおかしくない組織的病理である。その症状は,おおむねつぎのようなものだ——どれほど困難な状況にも対応できるという意思決定者の幻想,グループには倫理観が存在するという思い込み,組織の考え方に同調しないメンバーのステレオタイプ化,そして,合理的に物事を掘り下げることを阻害する過度に単純化された精神構造。やがて自称「思想の番人」が組織を巡回し,反対意見の拡散を食い止め,異端者に圧力をかけ,たとえ水面下では異論が渦を巻いていようとも,組織は一枚岩であるという錯覚を醸しだすのだ。もしも戦場で,このようにして認識の多様性が失われ,画一化した組織文化がはびこったとすれば,兵士は命を落とし,戦場は長期化しかねない。
アンドリュー・ゾッリ,アン・マリー・ヒーリー 須川綾子(訳) (2013). レジリエンス 復活力:あらゆるシステムの破綻と回復を分けるものは何か ダイヤモンド社 pp.265
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