19世紀の初めに,躁うつや精神病とは関連しない狂気があると最初に提唱したのはフランスの精神科医のフィリップ・ピネルだった。彼はそれを妄想のない精神病(マニ・サン・デリル)と呼んだ。患者は表面的には正常に見えるが,衝動を抑えることができず,暴力激発傾向があると彼は述べた。サイコパスと呼ばれるようになるのは1891年になって,ドイツの医師のJ.L.A.コッホが『サイコパス的劣等性(Die psychopathischen Minderwertigkeiten)』という本を出版したときからだ。
振り返ると,ボブ・ヘアは登場する前には,定義はまだ固まっていなかったことがわかる。1959年の「イングランドおよびウェールズの精神保健法」では,サイコパスは単に「知能の遅れの有無にかかわらない持続的な精神の異常または傷害であり,その結果,患者は異常な攻撃的行為,あるいははなはだしく無責任な行為に至り,医学的治療が必要となる,あるいは治療によって治る可能性がある」と説明されている。
ジョン・ロンソン 古川奈々子(訳) (2012). サイコパスを探せ!:「狂気」をめぐる冒険 朝日出版社 pp.85
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