「精神医学の診断はどんどん正常の境界に近づいてきている」とアレン・フランセスは言う。「その境界付近には非常にたくさんの人がいる。最も混雑している境界は正常との境界だ」
「なぜですか」
「あらゆる意味で社会が適合を求めるからだ。だんだんと異質であることが耐えがたくなっている。だから,ラベルを貼られるほうが楽だと感じる人もいるのだろう。それによって希望や方向性といった感覚が得られるからだ。『以前には,笑われて,いじめられ,誰からも好かれなかった私が,いまやインターネットで双極性障害に苦しむ仲間たちと話ができる。もう孤独を感じなくていいんです』というわけだ」彼は少し間をおいた。「一昔前までは,素行傷害やパーソナリティ障害や反抗挑戦性傷害といった,もっとひどいラベルを貼られていた子もいたかもしれない。小児双極性障害というのは,自分たちのせいで反抗的な子どもができてしまったのではないかと考えている親たちの罪の意識をうまく和らげてくれるのだ」
「だとしたら,いいことづくしじゃないですか。小児双極性障害と診断するのはいいことなのかもしれませんよ」
「いや,絶対によくない。そしてそれには非常に正当な理由があるのだ」
ジョン・ロンソン 古川奈々子(訳) (2012). サイコパスを探せ!:「狂気」をめぐる冒険 朝日出版社 pp.303
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