DSMの本領の1つは,精神障害とそうでない問題とを区別しようとしたことにある。それを区別することがいかに重大であるか,普通の人にはピンとこないだろうが,実に甚だしい影響がある。すなわちDSMとは,精神科医療の専門的視点を正当化し,行政や企業から支援を要求する根拠ともなっている。だがもっと重要なことは,私たちの社会が自分たちの問題をどのように考えるべきかという考え方の枠組みを,DSMが提供していることだ。
DSMは,ある種の行動をカテゴリー化することによって,どの行動が病気や障害に基づくものであり,精神科医などの専門家に取り扱われるべきかを決定する。精神障害というラベルが貼られた場合,その人の行動は,その人の内部の働きに不具合が生じた結果であるとみなされてしまう。
ハーブ・カチンス,スチュワート・A・カーク 高木俊介・塚本千秋(監訳) (2002). 精神疾患はつくられる:DSM診断の罠 日本評論社 pp.15
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