科学的レイシズムの歴史,特に優生学の歴史は,多くの理由で曖昧にされてきた。少なくともホロコーストへの貢献という理由だけではない。優生学の展開にこのような歴史性が認められるにもかかわらず,近年の精神障害の原因追求における遺伝主義的視点からの発言は,優生学とは関連づけられてこなかった。精神障害の遺伝的説明に反対する者たちですら,こうした考えの歴史的背景を見落としてきた。私たちは今日でも,生物学的理論の大流行を背景に,統合失調症や注意欠陥多動性障害などの説明に遺伝学を用いている。「まだ直接的な科学的証拠がない」と,提唱者たちですら認めているのに,そう言ってしまう。テクノロジーの進歩が劇的なので,私たちは科学的な証拠が見つかるのは時間の問題だと確信してしまっている。同じような主張が,衰えることなく1世紀以上にわたって繰り返されてきたのだ。
ハーブ・カチンス,スチュワート・A・カーク 高木俊介・塚本千秋(監訳) (2002). 精神疾患はつくられる:DSM診断の罠 日本評論社 pp.271-272
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