黒人の劣等性という神話は,心理学者たちの後押しで精神保健の隅々にまで広がっていった。最大の問題は学校で起きた。そこではIQが黒人の生徒を差別するために用いられた。白人に利用可能な教育資源を,彼らに与えない根拠となったのである。IQテストによる人種差別も,精神保健に2つの大きな影響を与えた。1つは,黒人がしばしば知恵遅れと間違って認識され,彼らの真の問題が見落とされてしまったことである。問題はすべて知的劣等性のせいにされるのであった。彼らは,不適切なクラスに入れられたり,回復不能な患者のためのプログラムを押しつけられたりした。そのため彼らは大抵悪化してしまった。2つ目に,黒人の患者が仮に正しく知恵遅れと判定されても,役に立たないプログラムを割り当てられてしまっていた。IQは,患者の能力をア・プリオリに決めつけるために用いられた。低いIQ得点は,教育的資源の提供を拒むための合理化として用いられ,さらには,非自発的な断種や厳罰主義的な処置を正当化するものとしても使われた。
ハーブ・カチンス,スチュワート・A・カーク 高木俊介・塚本千秋(監訳) (2002). 精神疾患はつくられる:DSM診断の罠 日本評論社 pp.278-279
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