サイコパシーとの比較において,ナルシシズムはとりわけ興味深く示唆にとんでいる。ナルシシズムは,言ってみれば,サイコパシーを半分にしたようなものだ。病的な自己愛者も,罪悪感から悲しみ,絶望的な愛情から情熱まで,ほかの人とおなじように強い感情をもつ。欠けているのは,ほかの人の気持ちを理解する能力である。ナルシシズムには良心ではなく,感情移入の能力,つまり他人の気持ちを感じとって適切に反応する能力が欠けているのだ。
ナルシシストは感情的に自分以外のものは目に入らず,ピルズベリー社のキャラクター,ドゥーボーイのように,外からのものはすべて跳ね返して受けつけない。そしてサイコパスとちがってナルシシストは心理的に苦痛を負い,セラピーを求めることが多い。ナルシシストが抱える問題の1つは,感情移入の能力を欠いているため,本人の知らないあいだに人との関係がこじれ,見捨てられて困惑し,孤独を感じることだ。愛する相手がいなくなったのを嘆くが,どうすれば取り戻せるかわからない。
対照的にサイコパスは,ほかの人びとに関心をもたないため,自分が疎外され見捨てられても嘆いたりしない。せいぜい便利な道具がなくなったのを残念に思うくらいのものだ。
マーサ・スタウト 木村博江(訳) (2012). 良心をもたない人たち 草思社 pp.170-171
PR