エコノミストが求めている成績はどんなものかを明らかにしてみるといい----さらに,効率的市場の理論家が言っていないことも。当然,市場では誰も儲けられないと言っているわけではない。たいていの長期投資家は結構なリターンを得ているし,そうなるはずだ----でなければ,誰も投資などしないだろう。
誰も平均を上回ることはないと言っているわけでもない。「平均」の利益とは,たとえばダウ平均とか,スタンダード&プアーズ500(S&P500)といった指標で表される。これらの指標は,代表的な株の値動きを追跡している。何年かの間,指標を上回る投資家は多い。わずかながら,何十年も指標の上を行く投資家もいる。
理論家は必ずしも,相場に勝った人が皆,ただ運がいいだけだと言っているわけでもない。大きなリスクを受け入れることで,利益を大きくする方法もある。てこ(レバレッジ;借金や信用取引を利用して,自己資金だけによるよりも儲けを大きくすること)を使うのもそのひとつだ。非常に積極的な投資家は,借金をして,それがなければ買えないほどに株を買うことがある。それによって,期待されるリターンが増幅される----もちろん,変動による危険(リスク)も高まる。
こうした理由で,優れた投資家という概念は,慎重に定めなければならない。リスク調整後リターンが相場を上回らなければならず,それを,運ではなく,何らかの理論的な方式で得ていなければならない。エコノミストが見つけられなかったのは,この種の具体的な証拠だった。
ウィリアム・パウンドストーン 松浦俊輔(訳) (2006). 天才数学者はこう賭ける 誰も語らなかった株とギャンブルの話 青土社 pp.156-157.
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