やはり,現代人が最も取り憑かれているのは,他人の目だろう。これは言葉どおり,他人が実際に見ているわけではない。ただ自分で,自分がどう見られているかを気にしすぎているだけだ。
全然気にしないというのは,やや問題かもしれないが,現代人は,この「仮想他者」「仮想周囲」のようなものを自分の中に作ってしまっていて,それに対して神経質になっている。そのために金を使い,高いものを着たり,人に自慢できることを無理にしようとする。いつも周囲で話題にできるものを探している。その方法でしか,自分が楽しめなくなっている。
金を使えば,仮想他者の評価が一時的に手に入るかもしれない。実際には,そういう幻想を自分で抱くだけだ。そしてそのあとには,無駄に使った金や時間のツケが待っている。そこで,自分はいったい何を楽しみに生きているのか,と気づくのである。
森博嗣 (2013). 「やりがいのある仕事」という幻想 朝日新聞出版 pp.197
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