個人的な提案ではあるが,流行りのキャリア教育が,<「やりたいこと(仕事)」の選択→その職業(仕事)について調べ学習>といったベクトルでの段階論に立っているとしたら,そんなことはすぐにもやめたほうがいい。そうではなくて,「やりたいこと」探しと,さまざまな職業(仕事)調べとは,同時並行的に,相互に影響を及ぼしあうように取り組まれるべきであろう。
職業(仕事)についてのいろいろな選択肢を知り,そのどれかに興味を持つ。そうしたら,その職業(仕事)について深く調べてみる。その結果,違うなと思ったら,また別の選択肢について興味を寄せてみる。そうしたら,今度はその職業(仕事)について……。求められるのは,こうした学習の繰り返しであり,「自己理解」と「職業理解」との往復関係をつくりあげることである。
結果として,在学中に「やりたいこと(仕事)」が決まらなくても構わない。「専門職(専門的職種)」に就きたいのであれば,ある時点で決めておく必要があるかもしれないが(——それだって本当は新卒時点ではなく,途中からの参入も可能なのだが),それ以外の若者にとっては,困ることなんてない。むしろ,決めていなくても,いろいろな選択肢(仕事)について理解していることのほうが決定的に重要である。
児美川孝一郎 (2013). キャリア教育のウソ 筑摩書房 pp.76-77
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