こうしたやり方の弊害は絶対にあると思うのだが,ひとつ,僕が非常に怖いと思っている点に,フリーターとの対比で正社員の「安定性」を際立たせるような手法は,生徒や学生のなかに,“正社員にさえなれれば,大丈夫だ(何とかなる)”という感覚を植えつけてしまうのではないか,ということがある。
しかし,実際には,何とかならないことが多い。どんな大企業であっても倒産してしまったり,経営危機に陥ったりすることは,いくらでもありうる。現に,希望退職をはじめとする人員削減(人件費コストの圧縮)によって,なんとか当座をしのいでいるような大企業は,いくらでも存在しているではないか。
帝国データバンクによれば,企業の設立から倒産(廃業)までの平均年数を計算してみると,時期にもよるが,ほぼ30年超になるという。長いようにも見えるが,これは,個人が生涯働き続ける年数よりも実は短い。“寄らば大樹の陰”のように,「正社員」という身分が絶対的に頼りになる時代ではもはやないのである。
児美川孝一郎 (2013). キャリア教育のウソ 筑摩書房 pp.143-144
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