その力とは一体何か。それは一つの力ではない。生活を構造化している力には三種類ある。第一は,身体の生理的なリズム。私たちが日常の中で行っている行動のある部分は生理的な欲求に基づいている。食事をするのはお腹が空いたからであり,トイレに行くのは用を足したくなったからであり,眠るのは眠たくなったからにほかならない。そして,お腹が空いたり,用を足したくなったり,眠くなるのは,体内時計と呼ばれる一定の生理的なリズムに従ってそうなるのである。
第二は,自分の意志。人間は自分の意志に力によってある行動をしたり,思いとどまったりすることができる。たとえば,眠気をこらえて夜遅くまで勉強している受験生や,空腹を堪えてダイエットに励む若い女性などはその典型だといってよい。どちらのケースも生理的な欲求によっては説明できない行動である。
第三は,社会の要請。生理的欲求にしろ,自分の意志にしろ,それは内的な力という点で共通である。これに対して社会の要請というのは外的な力である。人間は他者や集団からの要請(丁寧なお願いから強制的命令まで力のレベルはさまざまである)によってある行動をさせられたり,ある行動をしないようにさせられる。たとえば,平日の朝,会社員のAさんが六時半に起きるのは,九時までに出社すること(遅刻しないこと)を会社から要請されているからである。六時半という起床時刻は,起きてから朝食や身支度にかかる時間,自宅から会社までの所要時間を勘案して,出社時刻の九時から逆算して決定されたものであり,目覚まし時計の助けを借りずに自然に目が覚める時刻ではないのである。
大久保孝治 (2013). 日常生活の探求:ライフスタイルの社会学 左右社 pp.38-39
PR