しかし,これが暗黙の規範の次元になると話が違ってくる。まず結婚は「するのが普通」という通念がある。個人がその生涯を独身で通す確率を生涯未婚率といい,便宜的に50歳時点での未婚率で表すが,2010年時点での生涯未婚率は男性で20.1%,女性で10.6%である。1970年時点では男性は1.7%,女性は3.3%であったから,かなり上昇してきたとはいえ,まだまだ結婚する人のほうが多数派である。そうした社会では,結婚しないライフコースを選択することは(あるいは心ならずも選択せざるを得ないこと)はそれなりの覚悟を必要とする。周囲の「なぜ結婚しないの」という素朴な質問にいちいち答えていかなくてはならないし,所得税もたくさん取られるし,老後の不安も大きいものになりがちである。つまり私たちの社会の構造は人々が結婚というライフイベントを選択しやすいような仕組みになっているといってもよい。
大久保孝治 (2013). 日常生活の探求:ライフスタイルの社会学 左右社 pp.68
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