大学の演習形式の授業の初回で全員に自己紹介をしてもらうときに,気になっていることがある。それは自己紹介の最後に,「話しかけてくれたら嬉しいです」というような表現をする学生が非常に多いことだ。自分はみんなと話がしたい,仲良くなりたい,でもシャイな人間なので自分からはなかなか話しかけることができない,だから話しかけてほしいと。気持ちはわからないでもない。しかし,もしクラスの全員が同じ気持ちであったらどうだろう。みんな話がしたいのに,人から話しかけられることを待っているだけで,自分から話しかける人間が1人もいないので(話しかけて受け入れてもらえないことを恐れているのだ),結局,誰とも話すことができないだろう。まさに「みんなぼっち」の世界だ。「話しかけてくれたら嬉しいです」と言う学生に,私は,「だったらまず君から話しかけてごらんよ。相手はきっと嬉しいと思うよ」と話しかけることにしている。そうすると教室に笑いが起きる。これが私の狙いで,一緒に笑うことで,話がしやすくなるのである。
大久保孝治 (2013). 日常生活の探求:ライフスタイルの社会学 左右社 pp.158
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