また,教育社会学者の耳塚寛明は,「お茶の水女子大学21世紀COEプログラム(誕生から死までの人間発達科学)」の研究で,大規模調査のデータにもとづいて,子どもの学力が親の所得や学歴に強く規定されていることを明らかにした。耳塚は,イギリスの社会学者フィリップ・ブラウンの論をひきながら,日本は「富を背景とした親の願望」が子どもの学力を規定するペアレントクラシーの社会に突入しつつあることを指摘する。ペアレントクラシーの社会は,能力と努力が学力を規定するメリトクラシーの社会とは異なり,子どもたちがスタートラインの異なる競争に放り込まれている,「平等な競争という前提が保証されていない社会」である。このような社会では,学力の格差は「社会的競争ルールや社会構造自体に由来」するものであるから,格差緩和のために優先されるべき政策は,所得格差の緩和などそうした「社会構造自体」の改革であり,「仮定でのしつけの重要性」ではないと述べる(耳塚, 2007a)。
小玉重夫 (2013). 学力幻想 筑摩書房 pp.104
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