学校での学力の形成を支えている原理は,メリトクラシー(能力主義)である。メリトクラシーとは,もともとは,生まれや身分によって地位が決定された前近代社会から個人の業績(メリット)によって地位が決定される近代社会への転換によって広がった原理である。それは,生まれや身分によってではなく能力と業績によって社会的な地位が諸個人に配分されるという,近代的社会編成原理を指す概念として用いられてきた。しかし20世紀以降になると,メリトクラシーは,単なる個人の業績に基づく地位配分という原理にとどまらず,そのような人材の地位配分を人々が正統なものとして受け入れそれによって社会に包含されるようになるという,平等化と社会統合の機能を有するものとしても,とらえられるようになった。
学力という言葉は,このような地位配分と社会統合というメリトクラシーの2つの機能を併せ持つものとしてとらえられてきた。たとえば,学校で「勉強をして学力を身につける」というとき,それは,能力を身につけて就職し,仕事のできる人間になる(地位配分)という意味と,一人前の社会人,市民になって周りから大人として認められるようになる(社会統合)という意味の両方を含んでとらえられてきた。
小玉重夫 (2013). 学力幻想 筑摩書房 pp.142-143
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