その典型が携帯電話とメール。セクハラと訴えられる事案では,男性が女性に毎日数10通のメールを送っていた,毎晩深夜にケータイに電話を指定た,とストーカーのようなふるまいをしているのはざら。最初は業務上の連絡や指導のために始まるのですが,そもそもその女性に好意を持っている男性からすると,頻繁な1対1のやり取りの中で,徐々に思いがこもっていきます。しかも,女性の側は,熱心に連絡をくれる上司や教師に無愛想だと受け取られないようにと,絵文字を入れるなどして可愛らしいメールを送ってきます。若い女性からすれば,そんなのは,友人たちと交わしているメールでは当たり前のやりとりですが,中高年男性は華やかで可愛らしい調子には免疫がなく,すっかり特別に親しい付き合いをしているかのような気になってしまいます。そこからは,夜更けにはおやすみ,朝方にはおはようとエスカレート,用事もないのにメールを送り,おやすみのメールへの返信メールが女性からあろうものなら,「まだ起きてたの?」などとついついすぐに電話をかけたりもします。
メールや電話は,1対1のパーソナル・コミュニケーションでありながら,受け取った相手の戸惑っていたり困っていたりする様子がわかりにくい一方的な情報手段。だんだん「恋人気どり」を始める男性に,いい加減にしてほしい,と女性は電話がかかってきても取らなくなったりするのですが,相手は上司や派遣先の担当社員さんですから,まったく無視するわけにもいきません。男性の期限を損ねないように相手をしているだけなのに,「付き合いが深まった」と勝手に解釈して,会ったときに当然のようにキスしてくる上司。こんな例には事欠きません。
牟田和恵 (2013). 部長,その恋愛はセクハラです! 集英社 pp.83-84
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