しかも,さらにまずいことに,独特の価値観・世界観に基づく二項対立図式で思考する人は多くの場合,その二項を「善/悪」と結びつける傾向があります。
マルクス主義者であれば,「ブルジョワ的思考=悪/プロレタリア思考=善」,フェミニストであれば,「女性を蔑視する傾向=悪/女性を尊重する思考=善」,保守主義者であれば,「伝統を破壊する思考=悪/伝統を尊重する思考=善」,エコロジストであれば,「環境を大事にしない思考=悪/環境を大事にする思考=善」,愛国主義者であれば,「国を愛さない思考=悪/国を愛する思考=善」……という具合です。
当然のことながら,自分と味方の立場は「善」の側で,敵は「悪」の側です。「善」は「悪」に勝たねばなりません。味方が善で,敵が悪だと強く信じてしまうと,相手(=敵)が何か「正しそうなこと」を言っているなと心のなかで感じても,なかなか素直に認めることができません。相手の言い分を認めることが,悪魔に誑かされることのように感じられてしまうのです。
仲正昌樹 (2008). 知識だけあるバカになるな! 何も信じられない世界で生き抜く方法 大和書房 Pp.114
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