大勢の「感情」を煽って,声を大きくすれば社会は動く,という考え方は,民主的ではなく,ファシズムに近い危険なものだと感じるのである。戦争だって,国民の多くの声で突入するのだ。「国民の声を聞け」というが,その国民の声がいつも正しいとは限らないことを,歴史で学んだはずである。
そこにあるのは,多くの人たちが,物事を客観的に見ず,また抽象的に捉えることをしないで,ただ目の前にある「言葉」に煽動され,頭に血を上らせて,感情的な叫びを集めて山びこのように響かせているシーンである。1つ確実に言えるのは,「大きい声が,必ずしも正しい意見ではない」ということである。
できるだけ多くの人が,もう少し本当の意味で考えて,自分の見方を持ち,それぞれが違った意見を述べ合うこと,そしてその中和をはかるために話し合うことが,今最も大事だと思うし,誤った方向へ社会が地滑りしないよう,つまり結果的に豊かで平和な社会へ導く唯一の道ではないか,と僕は考えている。
森博嗣 (2013). 人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか 新潮社 pp.57-58
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